アカデミー賞(外国語映画賞)にノミネートされた『ラブレス』を有楽町で観てきました
昨日から公開している映画ラブレスを鑑賞。
2017年カンヌ映画祭審査員賞受賞作です。
日曜夕方、有楽町にある『ヒューマントラストシネマ有楽町』で観たが客は6割程度の入り。
もしかしたら6割切ってたかも。公開2日目でこれは悲しい。
同映画館で上映のラッキーは満席だったみたい。
こちらも観てみたんだよね。
まあ機会があれば行きましょう。
ラブレスを選んだ理由
なけなしの1800円でラブレスを観ようと思ったのはロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督が好きだから。
まあ、好きな割には名前覚えられないし、『父、帰る』しか観てないけど。
でもその唯一観た『父、帰る』の一撃のインパクトが相当なものだったので・・・
北野武映画を思わせる限りなく真っ青な空と、観客まで直接伝わってきそうなヒリヒリ感、寒々しさが印象的でした。
たけしの映画が好きなら是非見てほしい作品です。
過去観てきた何千作品の中でもベスト10に入ってます。
この作品、15年前に、監督が若干39歳の時に作ったんだから恐ろしい。
あと、この映画ができるはるか昔、ボキャブラで『父、帰る』を『乳、くわえる』っていうバカパク2.9の名作があったのを思い出すんですよ。
まあ、その話をし始めると長くなるので今回はラブレスの感想を。
まずはオールラインシネマから抜粋したあらすじを。
「父、帰る」「裁かれるは善人のみ」のロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督による2017年のカンヌ国際映画祭審査員賞受賞作。
離婚が決まり、一人息子を互いに押しつけ合う身勝手な夫婦を主人公に、その息子の失踪という事態に直面した夫婦の姿を冷徹な眼差しで描き出す。
主演は長編映画初出演のマリヤーナ・スピヴァクと「エレナの惑い」のアレクセイ・ロズィン。
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャは離婚協議中の夫婦。
言い争いが絶えず、目下の問題はどちらが12歳の息子アレクセイを引き取るかということ。
2人ともすでに恋人がいて、新しい生活をスタートさせる上でアレクセイはお荷物でしかなかった。
そんな中、学校からの連絡でようやくアレクセイが行方不明になっていることに気がつくボリスとジェーニャだったが…。
ラブレスの評価 ★×3.9(5点満点)
『父、帰る』超えならず。残念。
以下思いついた点を。
- 風景がいちいち素晴らしい。
印象的な風景シーンが多いんだよね、この監督。
すげーこだわってんだろうなと思うわ。オープニング、湖を泳ぐ3羽の水鳥。1羽は前の2羽から離れて泳いでるんだよね。
ああ、子供が失踪するのを暗示してるのかな、なんて思わせる絶妙の間合い。街中にある巨大な公園。主人公たちの一人息子が学校帰りに遊んでる。
ここが自然豊かで鬱蒼としてて素晴らしいんだわ。
ここの撮影思いついた段階で勝算あり。
都会の中なんだけど、なんか別世界な感じで。
息子失踪後はココが重点的に捜索されることに。巨大衛星アンテナ。
一見太陽の塔を思わせる巨大なアンテナ。
冷戦時代のロシアの象徴!だったのかは知らないけど大国を思わせるインパクト大の大きさ。その他にも荒涼とした、寒々しいロシアの雰囲気が手に取るように伝わってくる。
父、帰るは北野ブルーっぽかったけど、今回はどんよりした灰色の空が基調。
これら風景観るだけでも金払う価値あり。 - 心をつんざくピアノの音色
すごいキンキン響いて心をざわつかせる効果がありました。
寒いロシアとピアノの高音部分は良くマッチするね。
映画の内容と相まって不安定にさせるにはもってこいでした。 - 印象的なカットの数々
部分的なアップのシーンが面白かった。
父親が運転中のミラー越しの目だけのアップや、社食で食べる際のトレーだけに焦点が合ったシーンなど。あとガラス窓越しのシーンね。
失楽園の川島なお美や、さまよえる脳髄の高島礼子を彷彿とさせる。
この辺は万国共通。 - 思わせぶりなシーン
この監督、雰囲気づくりの達人なんですよ。
父、帰るでは井筒監督が『こいつ、思わせぶりな雰囲気だけでストーリーがない』ってボロクソだったけど、気持ちは分かる。
今回も思わせぶりな感じで観客に委ねます的な感じで終わるからそれが不満な人も多いはず。でも俺みたいに、その雰囲気にやられちゃう輩が多いのもまた事実。
少なくともカンヌ方面ではそういうハリウッド映画の対極にある感じが好まれるのでしょう。雰囲気にだまされて実は中身がスカスカって評価する人もいるでしょうが、雰囲気大事ですから。
脳が雰囲気に騙されれば大して美味しくない料理でも美味しいって満足するんだよ。 - 子役が一級品
子役がいいんですよ、息子役。
すぐ失踪するからほとんど出てないんですけどね。
もうちょい演技が見たかった。何と言っても映画の予告編にもなってる両親が自分を押し付けあってる会話を聞いてしまって、声を出さずにドア越しで泣いてるシーン。
あの泣き顔に全てが集約されていて文句なしの名シーン。
親に反抗的な態度を取っていただけに、余計に胸に迫る。
私が親の離婚の犠牲者です!って言葉無しでよく伝わりました。 - ちょっと登場人物がステレオタイプ的に描かれすぎやしないか?
特に母親ね。
しょっちゅう携帯いじって、新しいパートナーと食事してる最中も自撮りして。
子供にも興味持てない母親の典型的タイプを描いてるけど・・・ちょっとぺらくないか?
あとこの愛情に飢えてる彼女が生きづらさを抱える要因となった、彼女の母親が出てくるんだけど、これまたステレオタイプ的な娘を抑圧するタイプの人物で・・・もうちょい暗喩程度でおさめて欲しかった。
もろはつまらん。あとそれぞれの新しいパートナーの方々もなんか紋切り型で。
特に父親の方のパートナーね。
恋に恋するタイプでウザい感じが沸きで過ぎと言うか。この辺がもっと重厚な感じだと評価はあがったんだけどな。
ちょいちょい流れるウクライナのニュースや2012年終末の話題もちょっと空回りというかあざと過ぎで残念。
- 結局ラストは・・・
失踪したままなんですけどね。
思わせぶりに失踪ビラを見る人や森に入っていく人が出るんですが、『こいつもしかして誘拐犯???』て思うぐらいで確証はなく。
可能性としては・・・
①家出
②誘拐
③事故
なんですがわからずじまい。
映画の終盤、息子らしき死体を両親が確認させられるシーン。
初めてそこで二人が泣き崩れて感情があらわになるのですが別人でしたというオチ。
今まで子供を疎ましく思っていた母親が、唯一子供への愛情を示したシーンでした。ここで一瞬でも、二人が人間らしさを取り戻して、夫婦仲も戻って子供も帰ってきてめでたしめでたし・・・になると期待する人はそもそも見ない方がいいです。
失踪から何年かたったラストシーン、公園の池の上の木にオープニングで息子が遊んでいた際に巻き付けた、
長い紐みたいなものがそのままだったのですがもしかしたら池の底にいる目印かも知れないし・・・
この辺はわかりません。でもこの紐は、目印と言うよりは、この子が生きた唯一の証のような気もする。
両親の心にほとんど息子のことは残って無いからね。
その象徴と言うか。 - 人間は過ちを繰り返す
結局失踪したまま見つからず、ラストではそれぞれの新パートナーとの暮らしが描かれている。
でも二人とも表情が死んだ生活を送ってた。父は新たに息子が出来ていたが、テレビの邪魔になり、無言で囲いの中に入れているシーン。泣き叫ぶ息子。
元の木阿弥状態。ラブレスなまま。片や母親。
相変わらずパートナーの前でもスマホに夢中。恐らく自分たちの自己中な欠陥に気付いていないのでパートナーは変われど何も変わっていない生活。
愛情を求めてもそこに気付かぬ限りは生きづらさを抱えたまま。遅かれ早かれの破綻を匂わし終了。
ラスト、母親がルームランナーで走りながら、観客席方向を観ているのが印象的。
『これは私たちの問題では無く、あなた達の抱えた問題なのよ』と言ってるようで・・・
現代社会の無関心と心の喪失を描いた良作ではあると思うがいかんせん物語としては少々物足りない。ただ観て損は無いので心をざわつかせたい方はどうぞ。
ブログに夢中で、愛に飢えた松居一代さんにおススメです。
★×4.0(5点満点)
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